最後の夏。


3年生で迎える高校総体、夏の甲子園予選は特別な夏なんだ。

特にずっと同じスポーツを何年も続けてきた人にはだ。

僕は中学で大腿骨の疲労骨折、高校でも膝の故障と椎間板ヘルニアに泣かされて万年補欠

だったけど小学生で始めたバスケを高校生活最後の高校総体まで続けた。

まだ終わってない中学生の頃は優勝候補筆頭だったのにアウエーで負けた事が悔しくて高校

に入ったら二度とバスケはしないと泣きながら誓ったのに入学して直ぐに入部してしまいま

した身体が、脳みそがバスケの楽しさを忘れる事が出来なかったんだね。

高校で人生最大の恋をした僕は大叔母絡みで付き合い愛し合って未来も誓い合っていた彼女

から別れを告げられていたのだけれどお互いに嫌いになって別れた訳じゃ無いから僕は最後

の総体に行く前に彼女に「君のおにぎりを食べれば俺、頑張れそうな気がする」と言ったら

「作る訳無いでしょ」と言われたから「そうだよな俺達、別れたんだもんな」と諦めていた

けど夏の青空で暑い日、彼女はおにぎりを持って僕がバスに乗り込む前に持ってきてくれて

「食べて」とだけ言って去って行った。

バスに乗って直ぐに座席に座り隣には誰にも座らせなかった。

そして彼女のおにぎりを見た。

美味しそうだった・・・1個1個に彼女の愛情と願いが感じられた。

チームメイトの同級生や後輩も僕と彼女の関係を知っていたから普通は茶化す奴がいてもお

かしくない場面だけど誰も何も言わず見ず黙っていた。

僕は涙を流しながらおにぎりを口に入れた美味しい・・・・と思った。

今までで一番、美味しいおにぎりだと思った。

お袋には悪いけど世界で一番美味しいおにぎりだと思った。

そう思いながら3個あったおにぎりで中の具材が違ってたし全部美味しかったけど僕の脳と

舌が一番覚えている味は梅干しだったな・・・・・。

そうして僕は10年続けてきたバスケ最後の夏に臨んだ。

結果は1回戦は勝ち、同じ日にあった2回戦で負けた。僕は補欠で途中出場だったけど無謀

なコート中央部分からの今でいう3ポイントシュートが決まり物凄い爽快感だけ覚えてる。

負けた後、寄宿舎の外で3年生だけで写真を撮った。僕が誘って入れたマネージャーも入れ

てね。その写真の僕は達成感で満足そうな顔をしている。

その夜も穏やかで優しい時間が待っていた・・・・。

僕は宿の公衆電話から彼女に試合の結果とおにぎりのお礼を言ったんだけど彼女は「ご苦労

様、終わったね、頑張ってきたね」と言い僕は「ありがとう」としか涙が溢れて話せなかっ

た。こうして高校生、バスケ生活最後の夏が終わったんです。

彼女が居ない今でも僕は永遠に忘れないよ・・・あの時のおにぎりの味は。



幸せは私の中に、そしてあなたの中に。

徒然なる日々を書き綴りたい。病魔に襲われ今や再起不可能な身体になったけど心だけは何所にでも飛んでいける。

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